立方晶窒化ホウ素(cBN)膜は基板-膜界面にアモルファス層が形成されることが多く、エピタキシャル成長を阻むと考えられてきた。cBNと同じIII族窒化物ワイドギャップ半導体である窒化ガリウム(GaN)を超高真空(UHV)分子線エピタキシー(MBE)-走査プローブ顕微鏡(SPM)システム内でSi(111)上に成長させ、その表面を高速電子線回折(RHEED)と非接触原子間力顕微鏡(NC-AFM)で分析した結果、高周波プラズマにさらされたSi基板表面からはアモルファス層の形成を示唆するRHEEDパターンが得られたが、その上のGaN膜はSi(111)と明確な結晶方位を持って成長しており、NC-AFMによる原子分解能観察が可能であった。これは部分的に結晶化した窒化ケイ素あるいは未窒化のSi部分がアモルファス部分に対して優先的な核生成サイトとなった結果と考えられる。cBNでも同様のヘテロエピタキシャル成長の可能性を探ったが確認することが難しかった。Siよりも窒化物を形成しにくいダイヤモンド上へのヘテロエピタキシャル成長の様子をNC-AFMで観察するため、人工合成ダイヤモンド単結晶の(111)へき開面の原子分解能観察を試みた。ダイヤモンド単結晶は王水などの酸で処理した後にMBE-SPMに導入した。結晶を加熱しRHEEDで2x構造を確認してからNC-AFM観察を行った。部分的に平坦な表面は得られたが原子分解能観察は困難であった。小型水素プラズマ装置で処理した試料のRHEEDはより平坦性の高いパターンを示したため、原子分解能観察のためにはさらに高密度の水素プラズマ処理による清浄化・平坦化のプロセスが必要だと考えられる。cBNのエピタキシャル成長の様子をNC-AFMで観察するには至らなかったが、走査トンネル顕微鏡では観察が困難な絶縁性の高いワイドギャップ半導体表面の原子分解能観察に成功した。
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