研究概要 |
316Lステンレス鋼表面で1週間マウス線維芽細胞L929を培養した試料(L929/316L)、細胞培養液(MEM+FBS)もしくはHanks溶液に1週間浸漬した試料(MEM+FBS/316L、Hanks/316L)、表面にCollagenをコートした試料(Collagen/316L)およびAutoclave処理したままの試料(Autoclaved 316L)の5種類の試料を用意した。N_2ガスを通気した細胞培養液に浸漬直後、316L鋼の浸漬電位から-1000,-500,0,50,100mV(vs.SCE)に電位をステップした。応答電流は、電位ステップ直後に急激に上昇してピーク電流密度(J_<peak>)を示した後、徐々に減少して定常電流密度(J_<const>)を示した。このとき、J_<peak>は溶液-316L界面の電気容量およびファラデー反応の大きさに相当し、J_<const>は各ステップ電位(E_<ch>)でのファラデー反応の定常反応速度に相当すると考えられる。 アノード電位にステップしたL929/316LのJ_<peak>およびJ_<const>は、MEM+FBS/316LおよびHanks/316Lよりも高かった。また、Hanks/316Lでのこれらの電流密度は、溶液浸漬前のAutoclaved 316Lでの値と大きな差はなかった。Hanks溶液中では316L鋼表面にリン酸カルシウムが析出するが、リン酸カルシウムによる表面の電気化学反応活性の変化はほとんどないと考えられる。一方、細胞培養液に浸漬したり、細胞培養をしたりした金属表面には溶液中のタンパク質や細胞が産生した生体分子が吸着している。代表的な細胞産生物質であるコラーゲンをコートしたCollagen/316LでのJ_<peak>およびJ_<const>はAutoclaved 316Lよりも高かった。これより、生体分子が吸着している表面では、アノード分極側で起こる金属の溶解反応などのファラデー反応による電流や生体分子吸着層の充電電流が増加すると考えられる。 -1000mVにカソード電位ステップしたL929/316LおよびCollagen/316Lでの電流密度はAutoclaved 316Lに比べて低かった。316L鋼表面に吸着したコラーゲンなどの生体分子により、カソード反応が抑制されると考えられる。
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