昨年度までに、Ni_3Al冷間圧延箔の集合組織は、再結晶により一時的に複雑なものに変化するが、その後の粒成長によって、もとの圧延集合組織に戻るという特異な現象を見いだした。本年度は、粒成長過程で圧延集合組織方位を有する結晶粒が優先成長する機構を検討した。ここでは、Goss({110}[001])集合組織を有する83%冷間圧延箔を、600-1300℃で0.5-240時間熱処理し、種々の粒成長段階にある箔を用意した。走査電子顕微鏡内後方電子散乱解析装置(EBSD)により結晶方位空間分布を測定し、以下の結果を得た。 1.粒成長に伴ってGoss方位粒の占有率は増加し、最終的に、ほぼ全ての結晶粒がGoss方位に配向した高配向性箔が得られた。具体的には、平均粒径70μmにおいて、結晶粒の100%がGoss方位から15度以内に、97%が10度以内に配向していた。Goss方位粒(15度以内)は、成長初期(平均粒径0.5μm)では高々0.8%しか存在しておらず、著しく優先成長したことが分かる。 2.Goss方位粒とそれ以外の他方位粒はともに成長しており、2次再結晶などの異常な粒成長モードは観察されなかった。 3.粒成長に伴い、より高いエネルギーを有するランダム粒界が優先的に掃き出され、代わりに低エネルギー粒界である小角粒界の頻度が増加した。この結果は、粒界エネルギーの異方性が粒成長に影響することを示唆する。 4.粒成長の途中段階では、複数のGoss方位粒が隣接する特徴的な組織が観察され、この隣接Goss方位粒が優先的に成長していた。隣接Goss方位粒の間には小角粒界が、Goss方位粒と他方位粒との間にはランダム粒界が形成されていた。以上から、粒界エネルギーの異方性を駆動力として隣接Goss方位粒が優先成長し、その結果、箔が高配向化すると考察した。
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