研究概要 |
超短パルス紫外光レーザ材料としてCe^<3+>ドープガラスの開発・実用化を目標とした基礎研究を行った.前年度までの系統的な基礎研究によって,Ce^<3+>のみを生成させることが可能な最適マトリクスガラスとしてフッ化物系ではBaF_2-CaF_2-AlF_3-YF_3ガラスであることを見出すとともに,Nd:YAG4倍波の266nm紫外レーザ照射によるCe^<3+>の光酸化について調査した.本年度では,Ce^<3+>の光酸化に及ぼすガラスマトリクス効果について考察した. YAG4倍波を照射すると,全てのフッ化物ガラス試料において吸収スペクトルの波形が変化し,蛍光強度が低下した.しかしながら,YAG4倍波照射による吸収スペクトル波形と蛍光強度の変化はガラス組成により異なっていた.この組成依存性をESAに着目して考察した.ESAの起こりやすさを表すパラメータとしてCe^<3+>の励起準位5d^1とマトリクスガラスの吸収端の間のエネルギーギャップ(E.G.)を提案した.E.G.の増大にともない,YAG4倍波照射による吸収スペクトルの波形変化が大きくなった.このことから,E.G.が大きい組成ではCe^<3+>の5d^1準位からマトリクスガラスへのESAが起こりにくいため,5d^1準位に励起された電子がトラップ準位に移動し,着色中心を形成しやすくなるためであると考えられる.一方,E.G.が小さい組成では,5d^1準位の電子がESAによって伝導帯に励起されやすいため,5d^1準位からトラップ準位への電子の移動が起こりにくくなり,Ce^<3+>の光酸化が抑制されたためであると考えられる. 以上のように,本研究では系統的にマトリクス組成を変化させたCe^<3+>ドープガラスを調製し,Ce^<3+>のみをガラスに生成させるたやの最適ガラス組成としてBaF_2-CaF_2-AlF_3-YF_3ガラスを見出すとともに,Ce^<3+>の励起光による劣化機構を解明することに成功し,材料設計指針としてE.G.が有効なパラメータであることを提示した.
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