本研究は、当研究室により世界で初めて巻き戻しによる調製に成功した最小の組換え型二重特異性抗体(diabody)の中で、極めて高い抗腫瘍効果を示した上皮増殖因子受容体(EGFR)を標的としたEx3 diabody(Ex3)の医用へのより現実的展開を目的としている。今年度は、(1)臨床試薬としての繰り返し投与に耐えうるためのCDR graftingによるヒト型化、(2)低免疫原性、かつ効果の増強をねらった強力な抗腫瘍エンハンス分子との融合、(3)Ex3の強力な傷害性に関与する因子の解明、の観点から研究を進めた。実績は以下の通りである。(1)Ex3を構成する二種の抗体の中で抗CP3抗体は既にヒト型化した配列が報告されているため、発現宿主、大腸菌に最適化した遺伝子を全合成法により作製した。当研究室によりクローニングされたもう一方の抗EGFR抗体に関しては抗体の直接抗原と相互作用するアミノ酸残基以外の配列(FR)の相同性検索を行い最も相同性の高いヒト由来のFRを選択し、同様に遺伝子を全合成した。その後、それぞれを組み合わせ、ヒト型化Ex3を作製した。今後、ヒト型化前後の活性を評価する。(2)本研究室で既に確立させたdiabody-抗腫瘍エンハンス分子融合蛋白質作製手順に基づき、近年同定され、また当研究室で遺伝子を全合成させた低免疫原性分子であるヒト由来のサイトカインIL-21との融合Ex3を作製した。今後融合前後での活性の増減を評価する。(3)Ex3の作用機序の解明への糸口として、共焦点蛍光顕微鏡を用いた観察法の確立を目指した。アポトーシス、ネクローシスを識別する蛍光試薬を用いた観察によりEx3の傷害性は両者の関与を示唆する結果が得られた。今後、癌細胞、活性化リンパ球、あるいはEx3自身を蛍光染色させて、局在性や作用機序の解明を目指す。
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