近年、廃棄物をセメントの原燃料に用いる傾向が高まっていることから、原燃料に由来する有害重金属のセメント中での化学的挙動を解明することが強く求められている。本研究では、普通ポルトランドセメント中に本来的に含まれる微量のクロム(58.4ppm)、亜鉛(205.1ppm)の化学状態が、セメントの水和に伴ってどのように変化するかを明らかにすることを目的とした。シンクロトロン放射光によるXAFS(X線吸収微細構造)分析を初めてセメント系に適用することにより、以下の知見を得た。 XANES領域で吸収端手前に現れる6価クロムのピーク強度が水和に伴って減少することから、セメント中のクロムはセメントの水和の進行に伴い6価から3価への還元反応が進行することがわかった。この還元反応はセメント中に微量に存在する2価の鉄イオンの還元作用によるものと推定した。 XANES領域の比較から、セメント中の亜鉛は未水和の状態では、ウルツ鉱型の酸化亜鉛と同様の化学状態で存在しているが、水和反応が進行するにつれて、その化学状態が崩れることがわかった。さらに、EXAFS領域の解析を行った結果、亜鉛の第一近接原子は配位数、原子間距離ともほとんど変化しないことがわかった。このことは水和によってもZnO_4四面体の基本構造が崩れないことを示している。第二近接原子は水和に伴い原子間距離はほとんど変化しないが、配位数が減少することがわかった。このことはZnO_4四面体が積層して形成された結晶構造が水和に伴って崩れていくことを示唆している。
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