廃棄物などに由来する微量重金属が自然環境中に溶出し、生態系や人の健康に及ぼす悪影響が懸念されている。こういった環境影響を正確に見積もるためには、微量重金属の濃度だけでなく、化学状態も合わせて評価する必要がある。我々はX線吸収微細構造による分析手法を微量重金属を含有する標準ボルトランドセメントに初めて適用し、重金属の化学状態分析の基礎技術を確立した。クロム、鉛、亜鉛などのセメント中の含有量はppmレベルであり、従来のX線吸収微細構造の技術では観測が困難であったが、従来の単純な吸収型の配置に変えて、X線の吸収にほぼ比例して発生する蛍光X線を19素子半導体検出器で検出する蛍光型配置を採用することにより、大量のセメントマトリックス中にあるppmレベルの重金属からの信号を観察することに初めて成功した。また、大量の酸化ケイ素マトリックス中に存在する都市ごみ焼却飛灰中の重金属もこの手法で観測が可能になった。 標準ポルトランドセメントの水和に伴ってクロムは6価から3価に変化し、同時に鉛は2価から4価に変化していることがわかった。セメント中に含まれる微量重金属間では一種の酸化還元反応が進行し、水和の進行中に重金属の価数がフレキシブルに変化する傾向があることを見出した。亜鉛は未水和の状態では、ウルツ鉱型の酸化亜鉛と同じ化学状態にあるが、水和の進行につれて、その化学状態にある亜鉛が減少することがわかった。さらに都市ごみ焼却飛灰中に微量に存在するクロムを観察した結果、水ガラスを添加した熱処理を実施することによっても6価から3価へ価数が変化することを見出した。
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