本研究では、低温でイオン照射することによってカスケード損傷の痕跡であるカスケードデブリを凍結し、それに対して陽電子をプローブとして注入することによって原子レベルの欠陥分析を実施し、カスケード損傷構造に対する実験的な知見を与えることを目的とする。構造材料用に最も多く利用されている鉄鋼材料のベースたる鉄に注目して重点的に実験を行い、カスケードデブリとして存在するナノボイドの大きさの測定、さらにそれに対する注入イオン種やイオンエネルギーの効果を明らかにすることを目的とする。 本年度は、種々の条件のイオンを純鉄に照射することによって生成するナノボイドの蓄積過程を室温で調べた。使用したイオンはヘリウム、窒素、酸素、および鉄イオンである。ナノボイドの検出は照射チャンバーに設置された陽電子ビームドップラー測定によって実施され、細かく照射量を制御した照射条件や照射中での測定が実現した。その結果、(1)イオン照射に伴って空孔型欠陥の蓄積を示すSパラメータの上昇が見られ、その上昇は照射量増大とともに飽和する傾向であった(2)飽和した時点でのSパラメータは生成するナノボイドの大きさを表し、重いイオンほど大きいナノボイドを生成しているという傾向が現れた(3)Sパラメータ上昇の照射量依存性について解析を行い、ナノボイド数密度は照射量の〜0.5乗に比例していると推測され、カスケードで導入される格子間原子が移動して既存のナノボイドを消滅させていると解釈された。 以上の内容は12月に開催された第11回核融合炉材料国際会議(ICFRM-11)にて論文発表され、16年度中に出版予定である。
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