1 破砕したホウ珪酸ガラスの低線量率ガンマ線照射効果について、主に常磁性欠陥の生成の観点で研究した。下記(1)から(3)が主な結果であり、(1)(2)についてはJJAPに論文投稿中である。(1)BOHCと呼ばれる正孔捕獲中心はガンマ線照射したホウ珪酸ガラスに普遍的に見られる常磁性欠陥である。この欠陥は破砕によってガンマ線による生成が抑制されることが明らかになった。この抑制効果は破砕粒子の表面よりも内部に働くことから、破砕によって粒子内部に残留した弾性歪に伴う応力が抑制効果の原因になっているという現象論的モデルを提案した。(2)E'中心と呼ばれる正孔捕獲中心は実験的には高線量率でしか実現できない高線量ガンマ線照射によってホウ珪酸ガラスに生成すると考えられていたが、破砕することによって低線量率、低線量でも生成するようになることが明らかになった。幾つかの実験事実から、この効果は破砕によって粒子表面付近に前駆体が生成することによるものと考えられる。(3)3価の鉄イオンのESR信号にも破砕効果はみられる。ホウ珪酸ガラス中の金属イオンの振る舞いはガラス固化体の安定性の観点から極めて重要であるが、観測された変化を明確に説明できるに到っていないため、今後の課題として残っている。 2 熱した球状ガラスを急冷することにより内部に残留応力ができる。この試料にガンマ線照射した場合、BOHCの生成効率は促進される。これは1(1)とは異なっているが、提案したモデルが反証されたわけではなく、歪の様態(圧縮、引っ張り、せん断)によって現れる効果が変わる事を意味していると考えられる。現在、内部応力の空間分布とBOHC濃度の空間分布を対応させる実験を行っており、その結果を添えて論文として発表する予定である。
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