ホウ珪酸ガラスのガンマ線照射と化学的安定性の関係を調べる一環として、ホウ珪酸ガラスの一種であるパイレックスにガンマ線を照射し、生じた常磁性欠陥をESR(電子スピン共鳴)で検出し、生成した欠陥種とその生成効率および熱安定性を調べた。生じた最も主要な欠陥は既に報告されていた通りBOHCと呼ばれるものであった。 破砕した試料の場合、E'中心と呼ばれる珪素の未結合手が多く検出された。これは、破砕によって表面付近に酸素の空格子が生成したためと考えられる。また、BOHCの生成は抑制され、熱的には不安定になった。熱安定性の変化の原因はバンドギャップの変化によって説明できるかも知れない。また、生成効率の変化は主に破砕粒子の内部で起こっている事がエッチング実験によって示された。破砕によって粒子内部に影響が与えられる可能性として、内部応力の効果を議論した。観測された変化は内部応力1MPaあたり0.4%程度と見積もられた。以上の結果はJJAP誌に報告された。 内部応力を保持したガラス試料として、水中で急冷して生成した熱強化パイレックスガラスを用いた実験では、逆に生成効率の上昇と熱安定性の向上が観測された。内部応力とガンマ線誘起常磁性欠陥との関係は単純なものではなく、応力の様式にも依存している事を示唆している。以上の結果はJJAP誌に報告される。 パイレックスガラスを破砕すると溶解速度が上昇し、加熱するとその効果が無くなる。このような加熱による化学的安定性の向上はガンマ線照射によって促進される事が分かった。この原因については現時点では検討中であり、途中経過は日本原子力学会(2004年度秋)において発表したが、論文による公表はまだである。ガンマ線がホウ珪酸ガラスの化学的長期安定性に与える影響については、まだ不明な点が多く残っている事が明らかになってきつつある。これが現時点での研究実績の総括である。
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