今年度は、栄養塩を吸収する側である植物の根の栄養塩吸収活性の季節変化や植生による違いを明らかにするために、根の呼吸活性の測定をおこなった。植物の根は水と共に土壌中の栄養塩を吸収しているが、栄養塩の吸収にはエネルギー(ATP)が必要であるため、栄養塩の吸収には呼吸速度の増加を伴うと予想される。そこで、根の呼吸速度をインタクト(根を主根から切り離さずに)の状態で測定し、日変化や季節変化を明らかにすることを試みた。根の呼吸速度の測定対象は、ヒノキ・ツガ林、ミズナラ・ブナ林の優占種であるヒノキおよびミズナラの林冠木(樹高16m)である。測定は8月と9月の晴天日に3回、朝5時から夕方6時(13h)、あるいは朝5時から翌日の7時まで(26h)、約2〜3時間おきに、LI-6400を用いておこなった。 根の呼吸速度の日変化の測定の結果、ミズナラとヒノキの両種において、午前中の地温上昇とともに根の呼吸速度が増加しない、あるいは日中に呼吸速度が数%〜50%程度低下するという現象が観察された。強光乾燥条件下で樹木や草本の光合成速度が日中に低下する現象はこれまでに知られていたが、根の呼吸速度が日中低下する現象は、これまでに報告がなく、本研究で初めて明らかにされた現象である。根の呼吸の日中低下は夕方には回復したが、夕方から夜にかけて地温の低下とともに呼吸速度は低下し、夜明けと共に呼吸速度が急激に上昇する、という日変化を示した。さらに野外でインタクトの状態のまま根の温度を人工的にコントロールし、根の呼吸速度の温度依存性を調べたところ、同じ温度条件下でも日中の方が呼吸速度が高いことが明らかになった。つまり、昼は水および栄養塩の吸収に必要なエネルギーを補うために高い呼吸速度を維持していることが推察された。来年度は、この呼吸速度の日変化測定とデータ解析を季節毎に行い、栄養塩の吸収活性の季節変化を明らかにする予定である。
|