本研究は、森林タイプによって植物への栄養塩供給の季節性が異なるという仮説を検証するために、ミズナラ・ブナ林(落葉広葉樹林)とヒノキ・ツガ林(常緑針葉樹林)において、(1)土壌中の栄養塩供給の律速要因である土壌微生物バイオマスおよび土壌呼吸速度の季節変化、(2)土壌中の無機態窒素量(アンモニア態窒素、硝酸態窒素)の季節変化、(3)植物による栄養塩吸収の指標である根のバイオマスと根の呼吸速度の季節変化の比較をおこなった。その結果、ミズナラ・ブナ林では土壌中の無機窒素の量は初夏(6月)にピークを迎え夏から秋にかけて減少するのに対して、ヒノキ・ツガ林では、初夏(6月)には少なく8月から10月にかけて増加する傾向が見られた。これに対応して根のバイオマスも、ミズナラ・ブナ林では初夏から夏にかけて多く、ヒノキ・ツガ林では初夏には少なく秋に増加する傾向が見られた。このことは、ミズナラ・ブナ林では栄養塩供給と吸収のピークが初夏にあり、ヒノキ・ツガ林では秋にある可能性を示唆している。ただ、栄養塩を供給する側の土壌微生物のバイオマスの季節変化は、どちらの林分でも10〜12月の秋〜冬にかけて増加していた。両林分の優占種であるミズナラとヒノキの根の呼吸速度に関しては、両種とも盛夏(8月)に呼吸速度が低く、9月に高い傾向を示した。11月になると、ミズナラは落葉し根の呼吸速度は低下していたが、常緑であるヒノキは高い呼吸速度を維持していた。これらのことから、これまで生物活性が高いと考えられてきた盛夏は栄養塩の供給と吸収という視点ではあまり高くなく、むしろ初夏あるいは秋に活性が高くなることが示唆された。そして、森林タイプが異なる、つまり落葉広葉樹林では初夏に栄養塩の供給と吸収のピークが、常緑針葉樹林では秋にそのピークが存在する可能性が示唆された。
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