本研究の目的はヒトを含む霊長類の協力的な個体間関係の形成・維持メカニズムとしてのパニッシュメント(懲罰)のはたす役割について明らかにすることである。 本年度は科学研究費交付前の予備研究の結果を踏まえて、優位オスによる劣位オスの交尾妨害の研究をすすめた。優位オスが劣位オスと妊娠可能性が高いメスの近接を発見すると、優位オスは攻撃をくわえることが、さまざまな種で報告されている。このような攻撃は協力的な個体間関係に影響するパニッシュメントと考えることができる。では、優位オスは劣位オスとメスのどちらを攻撃すべきであろうか。交尾を妨害するためだけなら、オスを攻撃してもメスを攻撃してもよいように思われる。本研究では、この状況を優位オス、劣位オス、メスの3者のゲームとして解析した。それぞれのプレイヤーの立場でどのような戦略がどのような条件のときに進化的に安定な戦略(ESS)になりうるのかを解析的に検討した。そしてその条件のときにそれらの戦略が実際に進化しうるのかをコンピュータ・シミュレーションで検討した。その結果、優位オスが劣位オスとメスの交尾の妨害をする場合、オスを攻撃するコストがメスを攻撃するコストより高くても、オス攻撃が進化する可能性があることが明らかになった。またオス攻撃が進化する上での一つの大きな鍵が、メスの従順ではない戦略にあることが示唆された。これらの成果は現在論文として準備中である。 本年度はその他に、霊長類の協力的な個体間関係の進化メカニズムに関する実証研究および文献研究を研究論文・著書として発表した。
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