ゴミグモ属の一種、ゴミグモ(Cyclosa octotuberculata)を用いて、餌が網の上方向にある時と下方向にある時で、脚が置かれている糸の位置の変異を1/100秒単位で計測し、その絶対値の平均を上下で比較したところ、上方向に餌がある時の方がその値が大きかった。これは、15年度に本種で明らかにした、餌を発見し餌のある場所を認知するまでの時間は下方向の方が短いという行動解析の結果と一致しない。この原因として、振動データのサンプル数の少なさ、または解析方法に問題がある事が考えられるので、今後はその点を解決する事が課題になる。 一方、ギンメッキゴミグモ(Cyclosa aregenteoalba)、ギンナガゴミグモ(Cyclosa ginnaga)、ミナミノシマゴミグモ(cyclosa confusa)を使い、餌の場所まで移動するのに要する時間を上下方向で比較した。その結果、いずれも頭を上に向けて網に止まるギンメッキゴミグモ、ギンナガゴミグモと、ミナミノシマゴミグモのうち頭を上に向けて網に止まる個体では上下方向の差が小さかったのに対し、ミナミノシマゴミグモのうち頭を下に向けて網に止まる個体では下方向に早く移動するという結果が得られた。これは、頭を下に向けて網に止まるゴミグモの15年度の結果(下方向に早く移動できる)と同じであった。頭を上に向けて止まるクモが上半分が大きな網を張り、下に向けて止まるクモの網は下半分が大きい事から、ゴミグモ属では、網の上下非対称性、網に止まる時の頭の向き、移動時の上下方向の速度差に一貫した傾向がみられるという結論が得られた。このことから、ゴミグモ属の網形態の多様性が、採餌効率を高めるための個々の種の適応の結果である事が示唆された。
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