研究概要 |
平成15年度は2回渡航して開花種の調査を行い,訪花頻度や結実率を測定した.調査は開花植物を観察しやすいルート(父島の東平や旭山,初寝浦の遊歩道,母島の堺ヶ岳,南崎,兄島や向島にもルートがある)を歩き,開花している種を対象とした.訪花頻度は種ごとに1花序12時間当りに換算し,その値を帰化種・広域種・固有種といった植物種の区分ごとに平均して解析に用いた. 父島・母島では訪花の67%を移入種であるセイヨウミツバチが占めていた.この比率は小笠原の固有植物よりも帰化植物の方が高かった.全体的に帰化植物が選好される理由については餌資源としての魅力等が考えられるが,今後検証する必要がある.父島・母島では小笠原固有のハナバチ類はオガサワラクマバチを含めて2種しか確認できず,その頻度も非常に低かった.一方,周辺属島では訪花昆虫の数が多く,訪花頻度は父島・母島と比較して10倍近く高かった.また,周辺属島では固有ハナバチ類は7種が確認された.周辺属島では帰化植物は種数・量ともに少ないが,訪花頻度は固有植物と比較して明らかに低く,本来の訪花昆虫相では送粉の支障となる可能性が示唆された.ただし,訪花頻度や訪花昆虫相はある程度の年変動が予想されるため,引き続きデータを収集する必要がある. 訪花中の行動パターンはセイヨウミツバチと固有ハナバチ類,ハエ類で比較すると,ミツバチの滞在時間が他より短く,花序内訪花率が高いことが明らかになった.花序内訪花率が高いと個花の多い植物では隣花受粉が増大することから,ミツバチの定着は特に木本植物などの繁殖においてマイナスになっている可能性がある.
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