研究概要 |
平成16年度は2回渡航して,昨年度とりきれなかった開花種のデータや未調査の周辺属島における訪花昆虫の調査を行った.また南島や弟島,兄島,向島及び新生海洋島である西之島において訪花昆虫相を明らかにした.また,結実率や花粉の持ち込み量に関するデータの収集をおこなった.調査方法は開花植物を観察しやすいルートを歩き,開花している種を対象とした. これまで属島では移入ポリネーターであるセイヨウミツバチは兄島のみ分布記録があったが,今回の調査により,弟島や南島にも分布が拡大していることが明らかになった.また,このような島では兄島と同様に,固有ハナバチ類はセイヨウミツバチと共存する形で頻繁な訪花が観察された.このことから,父島・母島における在来訪花昆虫相の衰退は従来から言われていたセイヨウミツバチとの資源競争によるものではなく,他の要因による可能性が高いと考えられる. 父島・母島における訪花頻度の追加観察でセイヨウミツバチが訪花する花は観察した種の57%に達した.セイヨウミツバチが訪花する絶滅危惧種にはコヘラナレンやウチダシクロキなどがあるが,それ以外の多くの絶滅危惧種には訪花がないことから,セイヨウミツバチの餌資源要求性を衰退した稀少種個体群が満たすことができないためであると推測される.また,絶滅危惧種以外でも訪花が見られない種があり,今後,このような種は個体群が衰退する可能性がある. ナガバキブシやセキモンノキ,複数の小笠原固有ラン科植物などはいずれも個体数が極端に少ないが,在来訪花昆虫相が衰退した現在,繁殖面でも危機的な状況の陥っている可能性が高く,繁殖現況の詳細な調査を開始した.
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