本年度も、福岡県北九州市内及びその周辺の地域に点在するカスミサンショウウオ(Hynobius nebulosus)の生息地を捜索し、産卵期である1月〜3月の期間に各産卵地において、卵対からの卵および胚の採集、成体の尾の一部の採集など、遺伝子試料の収集を行った。特に産卵場所に集まった成体については、身体のコンディションや個体の質の評価の指標として、全長、体積、体重などの計測を行った。本年度は、新たな4つの孤立集団も含めて、20集団から約250個体分の遺伝子試料の採集を行った。 胚や成体の尾の一部の資料からのDNAを抽出は、簡易遺伝子抽出キットを用いて行い、平成15年度および16年度に採集した資料を中心に、約200個体分のDNAの抽出を行った。精製されたDNAサンプルの一部について、ミトコンドリア遺伝子のD-loop領域の約400bpを特異的なプライマーで増幅させ、DNAシーケンサーを用いて、塩基配列の決定を試みた。この領域のDNAは立体構造をとっていることが知られており、結果の塩基配列の途中にノイズが入ることもあり、精密な比較は今の段階ではできないが、ラフな評価では、同一集団内では、ハプロタイプの多型が少なく、固定していると思われる集団もあった。集団間では、多少の差異も認められるが、集団間の距離等で相関をとれるほどまだ解析は進んでいない。マイクロサテライト遺伝子による、各集団の多様性の評価については、カスミサンショウウオで使えそうな遺伝子座を、近縁種のプライマーで試してみたが、いくつかの遺伝子座は増幅されるが、多くの多型が検出されたものは少なかった。 今後は、ノイズの少ないプライマーを設計するのと同時に、残りの遺伝子サンプルについての塩基配列の決定を行う。また、近縁種のプライマーを用いて、多様性評価が可能なマイクロサテライト遺伝子座の開発および評価もおこなってゆく。
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