高等植物の雄性配偶子形成異常の突然変異体において、その原因遺伝子が特定された例は少ない。私は、雄性配偶子形成のメカニズムを理解することを目的に、配偶子自身のもつ遺伝子の異常による変異体、及び配偶子をとりまくジプロイド細胞の異常による変異体の、両面からの解析を進めている。 以前に光形態形成に関連するCIP7遺伝子ホモログのCSL1遺伝子にT-DNAタグが挿入されたシロイヌナズナ変異体(csl1)において、雄性配偶子形成が特異的に阻害されることを見いだした。その後の詳細な顕微鏡観察によって、csl1では花粉第一分裂直前の液胞が増大する時期に、液胞膜が崩壊することで異常が引き起こされることを見つけた。また最近、緑化の早い変異体として単離されたhayamidori (ham)という過剰発現型変異体において、やはりcsl1と同様の液胞膜の崩壊から異常が誘発されることを見つけた。これらのことは、雄性配偶子形成において色素体の形成と液胞の形成になんらかの関係があることを感じさせる。 さらに私は、ハプロイドの配偶子をとりまくジプロイド細胞によって雄性配偶子形成異常が引き起こされるものとして、メバロン酸経路のキーエンザイムといわれる、HMG-CoAレダクターゼ遺伝子のシロイタナズナにおける破壊株(hmg1)の解析も進めた。hmg1は雄性不稔の形質を示し、それはメバロン酸経路の下流にある、ステロールの減少によって引き起こされることを見つけた。in situハイブリダイゼーション解析の結果、HMG1は葯のタペータム細胞で強く発現していることが確かめられた。hmg1の葯を電子顕微鏡観察したところ、タペータム細胞内のエライオプラストとタペトソームの著しい収縮がみられた。これらのオルガネラから花粉へ供給されるステロール類が、花粉の発芽・伸長において何らかの機能を果たしていることを予感させる。
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