1.コガネグモの視葉大型細胞の応答特性 クモ類の中枢神経系の視覚ニューロパイル(視葉)には光に対して直接感受性を示す神経細胞が存在している。コガネグモの視葉細胞から細胞内記録染色を行った結果、側眼視葉の広範囲に樹状突起を広げる大型細胞は視葉への光照射に伴い緩電位に乗る活動電位を発生し、眼の光照射に対しては過分極性電位を発生した。視葉大型細胞と視神経基部から同時記録した細胞内外の活動電位は極めて良く同期して発生するが、少なくとも視神経基部で記録した細胞外記録はCo^<2+>を用いて化学シナプスの伝達を遮断しても光応答を示した。視葉大型細胞の応答は視葉のみを光照射した時には光照射期間中除々に活動が上昇し、光照射終了後は穏やかに暗順応のレベルまで低下した。他方、眼と視葉を同時に光照射した場合には、光強度が弱い時には視葉大型細胞の活動は抑制されるが、光強度の増加に伴い光強度依存的に活動電位発生頻度は増加し、光照射終了と同時に急激な応答の増加が見られた。コガネグモの視葉大型細胞は眼の視細胞との相互作用により、光強度の低下すなわち影に対する検知能力を優れた物にしていることが考えられた。 2.コガネグモの視葉大型細胞の形態的特徴と視細胞との神経連絡 細胞内染色法を用いて調べた結果、視葉大型細胞は側眼視葉の背側に比較的大型の細胞体を持ち、樹状突起先端部には糸球体の単位構造が連なった房状構造が観察された。側眼視細胞の終末部位においても糸球体構造が見られ、視葉大型細胞の樹状突起の分枝域と側眼視細胞終末域の大部分は同じ領域を占めていた。一方、前中眼の視細胞終末域と視葉大型細胞の樹状突起の分枝域にはほとんど重りがないことから、これらの細胞間では前中眼視細胞から入力を受ける介在ニューロンを介した抑制機構が働いていることが示唆された。
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