アミノアジピン酸還元酵素(LYS2)は菌類のリジン生合成に必須の酵素である。本酵素は菌類に特異的なものであり、ゲノム塩基配列比較からもそのことが支持された。ただ、系統進化上、どれほどの範囲の菌類が本酵素を持っているか不明であった。そこで、LYS2のアデニル化ドメインをコードしている領域を特異的に増幅できるPCRプライマーを設計し、下等菌類から高等菌類にわたる広い範囲の菌類由来のゲノムDNAおよびRNAに対してPCRあるいはRT-PCRを行い、その増幅産物の塩基配列を決定した。接合菌類などの下等菌類を含む43の配列データを決定し、DNAデータベースに登録した。さらに、LYS2の他にも菌類特異的遺伝子を探索したが、ゲノムDNAの配列データおよび既知遺伝子情報比較からでは、有意な情報を引き出すことができなかった。興味深いことに、LYS2に関してもドメインレベルで見ると、原核生物においても類似構造を持つものが多々存在していることがわかった。すなわち、菌類特異的な構造よりも菌類特異的な機能に関する情報がより重要であることを示す結果といえる。ただ、細胞レベルにおける菌類特異的機能情報は極めて乏しい。よって、未知領域、未知遺伝子も標的とした探索が必要である。実際、マウスゲノム科学における網羅的な発現RNAの情報解析結果より、大量の未知転写産物の存在が示されている。これらの未知発現RNAはゲノムDNAから転写されており、ゲノム上にマップすることができる。現在、ゲノム科学の分野においては、これら未知転写産物の機能解析が精力的に進められている。このアプローチは、やがて菌類を含むすべての生物に対して適応可能なものである。
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