研究概要 |
日本列島に広く知られるアカネズミ野生個体群の進化史を明らかにするため,同属近縁種との系統関係,遺伝子交雑を視野に入れた集団遺伝学的解析,形態形質の変異パターンの解析を行った.アカネズミの形態的種内変異は属内の種間変異に相当するほど大きいことが明らかになった.アカネズミの頭骨には,ハントウアカネズミにだけ見られるもの,セスジネズミだけにみられる特徴が混在していることがわかったので,それら2種を中心に,京都大学,北海道大学,アメリカ自然史博物館,米国自然史博物館において標本調査を行った.その結果,ハントウアカネズミ,セスジネズミともに朝鮮半島内における地域間分化が著しく,種分化が推測される個体群も含まれていた.アカネズミときわめて類似した特徴を有する集団も見られ,それらの祖先集団が日本列島に侵入してアカネズミの起源となったと推測される.形質状態の解析には画像情報が重要となるので,調査した全標本の頭骨について各2枚の写真撮影を行った.それらの解析により,形態から見たアカネズミの多系統起源の実態とその祖先の日本列島への侵入の経緯が,今後具体的に明らかにできると考えている.また,本研究で東アジアに分布するアカネズミ属9種の同定基準を確立し,分類学的混乱を解消し,各種の分布域を確定した.アカネズミの遺伝子解析については京都大学に保存されている資料について遺伝子抽出を進めた.予備的にミトコンドリアのチトクロームb領域の塩基配列解析を行い,DNAバンクなどの情報と比較したが,本研究の目的には適さないことが明らかとなった.研究を進める過程で,予想していたよりも多くの標本が,国内外に所蔵され,利用可能であることが明らかになったので,本年度はワナによる標本採集は行わなかった.なお,本年度得られた成果の一部は,2004年8月に北京で行われる国際動物学会議でポスター発表する予定である.
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