研究概要 |
本研究は,形態形質だけではコンセンサスが得られず,多くの分類学的な問題点を持つ蘚類ハイゴケ科・ナガハシゴケ科について,系統学的な知見を活用して分類形質の再評価を行い,分類体系の再検討を行うことを目的とする.今年度は,両科の境界に位置するトゲハイゴケ属・カガミゴケ属・コモチイトゴケ属および,ハイゴケ科内でフトゴケ科やイワダレゴケ科との関係が示唆されているクシノハゴケ亜科のクシノハゴケ属について検討を行った.トゲハイゴケ属のタイプでオーストラリアに分布するWijkia extenuataは日本産のトゲハイゴケ属とは別のクレードに位置し,日本産のトゲハイゴケ属とされる種は別の属に分類する必要があることが明らかになった.また,日本産のトゲハイゴケ属はカガミゴケ属やコモチイトゴケ属とクレードを形成した.現在,1つの種とされているコモチイトゴケ属のコモチイトゴケは,同所的にrbcL遺伝子の塩基配列のレベルで2つのハプロタイプが存在することが明らかとなった.コモチイトゴケのシノニムにBrotherella yokohamaeとPylaisiadelpha tenuirostrisがあるが,これらのハプロタイプの形態は両者に相当するものであった.この結果については学会発表を行った.また,両種について分類学的な研究が必要であるので北米産P. tenuirostrisと比較し,論文として公表すべく準備を進めている.クシノハゴケ属については,rbcL遺伝子を用いた系統解析によってその単系統性が示され,フトゴケ科のフサゴケ属・イワダレゴケ属と近い関係にあることが明らかになった.この結果については学会発表を行い,結果を論文として公表すべく準備を進めている.また,matK遺伝子を用いてより信頼性の高い結果を得る予定である.また,9月には,ミズーリ植物園において開催されたシンポジウムで,ハイゴケ科とナガハシゴケ科の関係を含めた蘚類全体の約500種を用いた系統樹について講演を行った.本研究・調査の過程で情報の得られたものについても論文発表を行った.
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