研究概要 |
本研究は,形態形質だけではコンセンサスが得られず,多くの分類学的な問題点を持つ蘇類ハイゴケ科・ナガハシゴケ科について,系統学的な知見を活用して分類形質の再評価を行い,分類体系の再検討を行うことを目的とする.今年度は,ヨーロッパ,オーストラリア,および北海道において材料を採集し,現在解析を進めている.昨年度に続いて両科の境界を議論する上で重要なトゲハイゴケ属・カガミゴケ属・コモチイトゴケ属の種を増やすとともに,ハイゴケ科内のハイゴケ属やアカイチイゴケ属,シロイチイゴケ属についても検討を行った.トゲハイゴケ属のタイプでオーストラリアに分布するWijkia extenuataは日本産のトゲハイゴケ属とは別のクレードに位置することを現地の調査によりサンプル数を増やして検討するとともに,大きく2つの形態に分けられることが明らかになった.また,ヨーロッパ産のカガミゴケ属を入手して検討した結果,日本産のトゲハイゴケ属とされる種の多くがカガミゴケ属に含められるべきであるという結論に至った.また,日本産のカガミゴケ属はヨーロッパ産のものとは単系統群にならなかった.この結果については平成17年度夏に国際学会で発表予定である.これまでに得られた結果を裏付けるべく,matK遺伝子を用いてより信頼性の高い系統樹を構築しつつある.また,昨年度,ミズーリ植物園において開催されたシンポジウムにおいて発表した結果については,その後得られたデータを加えて,ハイゴケ科とナガハシゴケ科の関係を含めた蘇類全体の約600種を用いた系統樹について専門誌に論文発表を行った.本研究・調査の過程で情報の得られたものについても現在論文を準備中である.また,簡便なDNA抽出方法について,専門誌に投稿すべく論文を準備中である.
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