モグラ科は世界では42種が知られ、種の多様性に富んでいるが、系統学的位置付けは不明な点が多く、モグラ類の進化も謎のまま残されてきた。申請者の所属する研究グループは、モグラ科の進化はユーラシア大陸起源であり、地上生活を行っていたトガリネズミ似のモグラ科の祖先が、ユーラシア大陸と北アメリカ大陸へ分布を広げ、それぞれ独立に地下生活へと適応していった「協調進化」が起きた可能性をミトコンドリアDNAから示唆していた。 本研究計画においては、(1)新たなサンプリングを行う、(2)新たに核遺伝子のマーカーを用いた解析を行う、の2点によって、ミトコンドリア遺伝子によって得られた結果を検証することを目標としている。平成15年度の研究実績としては、(1)新たに、ニオイモグラ(Scaptochirus moschatus)、マレーシアモグラ(Euroscaptor micrura)、タイモグラ(E.klossi)のサンプルを入手し、ミトコンドリア遺伝子の解析を行った。さらに、(2)新しい核遺伝子のマーカーとして、Recombination Activating Gene 1(RAG1)遺伝子の解析に着手し、20種の塩基配列決定に成功した。その結果、ミトコンドリアDNAによって示唆されていた地下生活型のモグラ類の協調進化の可能性は支持されたものの、半地下生活を行うヒミズ類においては、ユーラシア大陸産と北アメリカ大陸産との間で単系統性が示された。しかしながら、系統解析に必要なアウトグループにおいて塩基配列が得られておらず、来年度以降の課題となっている。更に、von Willebrand Factor gene(vWF)遺伝子の解析にも着手しているものの、現在に至るまで良好な結果は得られていない。平成15年8月に日本進化学会福岡大会2003(九州大学)において、これまでの研究成果を発表した。
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