食虫目モグラ科は、北アメリカから日本を含むユーラシア大陸に広く分布し、4つの亜科からなる17属が知られる。これらモグラ科内の系統関係を明らかにすることは、哺乳動物における完全地下生活型への進化や、小型哺乳類の大陸間移動の歴史を探るうえで重要である。これまでミトコンドリアDNA(チトクロームb遺伝子)を用いて解析を行ってきたが、本研究助成においては、核遺伝子であるRecombination Activating Gene 1 (RAG1)の塩基配列に基づいて解析を行つた。その結果、ミトコンドリア遺伝子では支持されなかったヒミズ亜科の単系統性が支持され、更にはこれまで十分な系統学的知見が得られていなかったホシバナモグラが、ユーラシア大陸の大型モグラ類と近縁である可能性が示された。しかしながら、北アメリカ大陸とユーラシア大陸のモグラ類の単系統性については支持が得られず、協調進化が起きた可能性を示唆した。すなわち、モグラ科の進化はユーラシア大陸起源であり、地上生活を行っていたトガリネズミ似のモグラ科の祖先が、ユーラシア大陸と北アメリカ大陸へ、それぞれ分布を広げて独立に地下生活へと適応していった可能性を明らかにした。また、一方で東南アジアにおいて新たなサンプルの解析をミトコンドリアDNA(チトクロームbおよび12SrRNA遺伝子)および核遺伝子(RAG1)によって行ったところ、東南アジアにスポット状に生息するミズラモグラ属が、残存種の集合体であることが明らかとなり、それぞれの地域個体群は起源が古く、いずれもが特徴的な遺伝的形質を維持したまま生息していることが明らかとなった。今後、東南アジア地域のモグラ類について、より解析を詳細に行うことによって、東アジア地域におけるモグラ科の多様性の高さの謎についても明らかとなるであろう。
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