本年度は、琉球列島における維管束植物の種分化機構解明に向けて、琉球列島準固有種であるミヤコジシバリ(キク科)を中心に、細胞学的、分子生物学的解析をおこなった。その結果、1)ミヤコジシバリに三〜八倍体に至る著しい種内倍数性が見られること、2)中琉球には三〜六倍体、南琉球には五〜八倍体が分布し、琉球列島を南下するにつれて高次倍数体が出現するようになること、3)ミヤコジシバリの種内倍数性が、同属のハマニガナとオオジシバリの異種間交雑に端を発する網状進化の産物であること、4)ミヤコジシバリを介してハマニガナからオオジシバリへの遺伝子移入が生じていること、等を明らかにした。海浜植物であるハマニガナと内陸性のオオジシバリは本来生育環境が異なり、生態的、細胞学的に隔離されている。しかし、異なる生育環境がモザイク状に近接して存在する琉球列島の島嶼環境が両種の二次的接触を促し、結果として複雑な網状進化を生じさせる要因となった可能性が示唆された。ミヤコジシバリの進化に関する一連の研究成果は論文として取りまとめ、すでに発表済みである。さらに、アカネ科のボチョウジ属、サツマイナモリ属について、これまで未報告であった種の染色体数を論文として発表した他、ボチョウジ属の2種で交雑が生じている可能性を指摘した。分子系統学的手法を用いて予備的解析をおこない、倍数レベルの異なるボチョウジ属の2種間に遺伝的交流がある可能性があること等を明らかにした。これらの分類群にっいては、来年度以降、継続して解析をおこなう予定である。
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