本研究の最終的な目標は、膜蛋白質である重金属イオンポンプに特異的な機能を解き明かすため、X線結晶構造解析法でその立体構造を決定することである。申請者の所属している研究室では、同じくイオンポンプに属するカルシウムポンプのX線結晶構造解析に成功している。しかし、カルシウムポンプとは異なり、重金属イオンポンプを天然の材料から大量に調製することは困難である。そこで、結晶化に適した蛋白質標品の調製を目指して、平成15年度は大腸菌を用いた大量発現系の構築に取り組んだ。 菌類や高度好熱菌由来の6種の重金属イオンポンプ全長を、N末端かC末端にHisタグ付加した発現ベクターを作製し大腸菌内での発現を試みた。その内、N末端にタグを含むE.hiraeのCopB(銅イオン輸送)とE.coliのZntA(亜鉛イオン輸送)は発現量が高く、遠心分離操作により膜画分に活性体を回収できた。また、E.coliとE.hiraeのCopAは37℃の代わりに25℃で培養すると、前者と同程度の蛋白質の回収が可能となった。残念な事に、結晶化に有利であろうと考えていた好熱菌のCop蛋白質は、あまり発現しなかった。 可溶化後Niキレート樹脂で精製すると、1L培養液当たり約1〜2.5mgの活性体重金属イオンポンプ蛋白質を得た。しかし、結晶化に使用するには純度は低く、安定性等にも改良すべき余地がある。現在、これらの問題点を解決すべく、培養、破砕、可溶化そしてカラム精製の条件の最適化を進めている。問題はあるものの、4種の活性体重金属イオンポンプの大量発現系を構築した。平成16年度の計画は、以上の問題点に取り組みながら、同時に結晶化スクリーニングを試みる。
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