研究概要 |
高等植物のフェレドキシン(Fd)は、活性中心に[2Fe-2S]lクラスターを持つ電子伝達蛋白質である。このFdは光化学系Iから受け取った電子を複数の同化還元酵素群へと伝達する役割を担っている。FdとこれらFdに依存する酵素間での電子の受け渡しは、一般的に電子伝達複合体を形成した後に起こることが判っている。各還元酵素の活性は炭素、窒素、硫黄など無機酸化物の同化反応と直結しており、複合体形成と各還元酵素への電子の分配とに密接な相関があるものと思われる。実験責任者はFdとFd-NADP+還元酵素(FNR)との複合体結晶構造を明らかにしているが、この複合体構造中ではFd側の電荷を持ったアミノ酸による静電的な相互作用がFNRとの複合体形成に重要であることが見出された。さらに複合体を形成することによりFdとFNRの双方に構造変化が誘発されることも明らかにしている。しかしながら、FNR以外にFdとの複合体構造は報告されておらず、他の還元酵素の場合はどうであるかは不明のままである。本研究課題ではトウモロコシのFdとSiRとの電子伝達複合体を構造解析し、Fdの持つ複合体形成様式の多面性を原子レベルで明らかにしたいと考えている。亜硫酸還元酵素の単斜晶系の結晶化は再現性が悪く、重原子同型置換体結晶を作る事が困難であったため、鉄原子の異常分散効果を利用した多波長異常分散法による構造解析を目指し、高エネルギー加速器研究機構、放射光研究施設(KEK-PF)のビームラインNW12に於いて、鉄原子を用いたMAD法による測定を行った。測定中にX線強度が低下するという予期せぬアクシデントが発生したが、Peak波長(2.60Å,R=0.12)、edge波長(2.70Å,R=0.133)、remote波長(3.15Å,R=0.171)の三波長でデータ収集を行うことができた、現在鉄原子の異常分散効果による位相付けを試みている。亜硫酸還元酵素単体の構造が判明した暁には、すでに得られている亜硫酸還元酵素とFd複合体の結晶を使って、分子置換法により目的を達成する事が可能であると考えている。
|