これまでの研究から、大腸癌由来WiDr細胞をマトリライシン(MMP-7)で処理すると、その転移能が著しく上昇することが明らかになっている。さらに、MMP-7処理によってWiDr細胞の細胞凝集が促進されることを見い出し、その凝集が転移能上昇と密接に関連することを明らかにしてきた。しかしながら、MMP-7がWiDr細胞の細胞表層でどのような基質タンパク質を切断し、またどのような分子機序で凝集を引き起こすのかについては、未だ明らかになっていない。今回、MMP-7が誘導する細胞凝集機構を明らかにする目的で、細胞凝集に関わるタンパク質の単離・同定を試みた。まず、細胞をMMP-7処理した後に、溶液中に遊離するタンパク質と細胞表面に残存する分子について、それぞれ調べたところ、細胞凝集誘導活性は細胞表面に残存することが判明した。一方、MMP-7処理した細胞をEDTA処理したり、カルシウムイオンを含まない培養液に移すと、細胞凝集が阻害されることから、細胞凝集誘因子はカルシウム依存的に細胞表面に結合する可能性が考えられた。事実、MMP-7処理した細胞をさらにEDTA処理すると、細胞凝集誘導活性が溶液中に遊離することを見い出した。このEDTA処理により遊離するタンパク質をSDS-PAGEにより分離した結果、いくつかの分子がMMP-7処理した細胞からのみ特異的に遊離することが判明した。現在、これらのタンパク質が細胞間架橋に関わるのではないかと考え、その同定を試みている。
|