ゲノムDNAは細胞内において常に損傷を受けている。中でも二重鎖切断損傷は、染色体異常の直接的な原因となる。二重鎖切断は、相同組換えを経由したDNA修復経路によって速やかに修復されるが、そのメカニズムについては生化学的にも構造生物学的にも解析が進んでおらず、その分子機構の理解は不十分である。相同組換え反応の要の反応は相同的対合反応である。相同的対合反応の分子機構を明らかにするために、減数分裂期での相同対合反応の中心酵素であるヒトDmc1の立体構造解析をX線結晶回折法によって行い、Dmc1が8量体のリング構造を基本とする16量体のダブルリング構造を形成することを明らかにした。そして立体構造に立脚した変異体解析によって、Dmc1の16量体ダブルリングにおけるDNA結合部位を同定した。Dmc1ダブルリングの中央の穴は約30オングストロームの直径をもち、その中央の穴に糸を通すように二重鎖DNAを結合することが分かった。単鎖DNAは、ダブルリング構造の側面に存在する単鎖DNA専用の溝に結合することを変異体解析によって明らかにした。また、出芽酵母の遺伝学的解析より、Dmc1と機能的な相互作用が示唆されているTBPIP/Hop2に着目し、リコンビナントタンパク質として大量に精製する系を確立した。そして精製されたTBPIP/Hop2が、Dmc1によって触媒される相同的対合反応を著しく活性化することを見いだした。TBPIP/Hop2のドメイン解析を、欠失変異体作製法によって行った結果、TBPIP/Hop2はN末端領域にてDNAに結合するが、C末端領域はDmc1依存的な相同的対合反応の活性化に重要であることを明らかにした。
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