スフィンゴシン1-リン酸(S1P)は、細胞外からの受容体を介する作用と細胞内での様々な刺激のセカンドメッセンジャーとしての作用を併せ持つユニークな生理活性脂質である。申請者は、S1PがER脂質二重膜の細胞質側と内腔側で異なった代謝を受けることを見いだした。すなわち、S1Pは細胞質側でS1Pリアーゼ(SPL)により分解されるのに対して、内腔側ではS1Pホスファターゼによって脱リン酸化される。また、SPLを遺伝学的に欠損させたマウスF9細胞を用いた解析から、細胞内S1P自身が細胞増殖作用を持つのでなく、S1Pリアーゼを介して分解される経路の活性化が重要であることを見いだした。 我々は動物細胞を用いた解析に加え、酵母の遺伝学を用いて細胞内のスフィンゴイド長鎖塩基1-リン酸(LCBP)(S1P類似体;S1Pと同様の代謝、働きを持つ)の作用経路、動態、生成調節機構の解明を行なっている。これらの解析の中で、LCBP合成酵素であるLcb4pがパルミトイル化、リン酸化、ユビキチン化により複雑に制御されていることを見いだした。パルミトイル化により膜にアンカーしたLcb4pは細胞膜、ER膜に輸送された後、リン酸化、ユビキチン化による修飾を受ける。これらの修飾がシグナルとなり、MVBを介した液胞への輸送後、分解されることを明らかにした。また、LCBPの基質である長鎖塩基(LCB)の脂質二重層での配向を制御する因子Rsb1pを同定し、その発現がグリセロリン脂質の脂質非対称の変化によって誘導されることを見いだした。一方、細胞内S1Pシグナルの分子メカニズムの解明にむけて、LCBPシグナル伝達が損なわれた酵母変異株を多数単離した。これらの解析はこれまで不明であった細胞内S1Pのターゲット因子、シグナル経路の解明につながると期待される。
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