私はこれまで、PNGase活性が真核細胞の細胞質画分に広く存在することを突き止め、出芽酵母において酵素の遺伝子を世界に先駆けて同定した。本酵素のオルソログは酵母からヒトにいたるまで広く保存されている。本研究では、線虫のPNGaseオルソログが2重の機能を持つ事を示した。 酵素が実際に2重の酵素活性を持つかどうかを明らかにするために、酵素の全長および部分長の酵素を出芽酵母あるいは大腸菌で発現させた。チオレドキシン(TR)活性に関しては、出芽酵母中でTR欠損株において酵母がメチオニン要求性になることを利用し、要求性が回復することを指標にして、線虫PNGaseがTR活性を持つかどうかを検討した。その結果、N端部分のTR様ドメインを持つタンパク質は全長、部分長ともにTR活性を持つことが明らかとなった。また、同様にPNGase括性に関しても大腸菌における発現タンパク質の活性をフェツイン由来の糖ペプチドを基質にして測定したところ、全長のタンパク質に酵素活性が見出された。これらの結果から、線虫のPNGaseが真にTRと2重の酵素活性を持つことが明らかとなった。また、単離された、神経の分岐異常を示した変異株のうち、PNGase遺伝子中のどの位置に変異が導入されているかをゲノムの配列解析によって明らかにした。その結果、得られた3つの変異のうち、全ての変異がTRドメインでなく、PNGase活性ドメインに存在することが明らかとなった。以上の研究により、線虫において細胞質のPNGase活性の欠損が、神経の分岐異常という特徴的な変異を引き起こすことが明確になった。
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