生物は環境ストレスに迅速に適応するために、ストレス応答MAPK情報伝達経路(SAPK経路)を備えている。この経路は酵母からヒトまでよく保存されており、出芽酵母では高浸透圧に対するHOG経路が存在する。HOG経路のPbs2MAPKKはN末の長い非キナーゼ領域で他のシグナル因子と結合し、シグナル伝達の足場としても働いている。我々は上流のSsk2/Ssk22MAPKKKのキナーゼ・ドメインがPbs2のN末領域と特異的に結合するのを見いだし、Pbs2におけるSsk2との特異的ドッキング部位についてはアミノ酸レベルで同定することに成功した。また、このドッキング・サイトがシグナル伝達の効率を上げるのに加え、MAPKKK-MAPKK間の特異性の決定・維持に必須であり、複数存在するMAPK経路においてシグナルの混線を防ぎ正確なシグナル伝達を可能にすることを明らかにした(Tatebayashi et al.;EMBO.J.2003)。さらにPbs2が活性化の有無にかかわらず、核と細胞質の間をシャトルしており、それにはN末の核外移行シグナルとC末の核移行に必須なドメインが必要であることも見いだした。これらの知見は、いずれも、SAPK経路におけるMAPKKの活性化及びその制御メカニズムを理解する上で極めて重要であり、とりわけ、これまで明らかにされていなかったMAPKKK-MAPKKの特異的結合を担うドッキング・サイトを見いだしたことは、SAPK経路の特異性決定機構を理解する上で大変意義深いと考えられる。
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