研究概要 |
神経成長因子(Nerve growth factor,以下NGFと略)は、知覚・交感神経細胞が集まる後根節神経の神経軸索伸長に必須の蛋白質である。この蛋白質に蛍光色素Cy3を共有結合させた蛍光NGFは、通常のNGFと同様の生理活性を有する。この蛍光NGFを投与した後根節神経を、蛍光1分子可視化技術をもちいて観察すると、神経軸索先端に存在する成長円錐の部分で蛍光NGFが細胞内に取りこまれている様子が観察出来る。蛍光NGFは膜表面の受容体と複合体を形成した後、成長円錐の周縁から中心部に向かう逆行性輸送システムによって成長円錐の中心部に運ばれ、ここで高い蛍光輝度を持つNGF分子クラスターを形成する。アクチン重合阻害剤Latrunculin Bを投与すると、成長円錐の逆行性輸送は阻害され、蛍光NGFは成長円錐の中心部に向かって輸送されないことから、アクチンの重合が、成長円錐の周縁部から中心部に向かうNGF輸送の原動力となっている事が示唆された。また、高親和性NGF受容体TrkAのリン酸化阻害剤k252aを投与すると、成長円錐の逆行性輸送は阻害されないにもかかわらず、成長円錐の周縁部から中心部に向かう蛍光NGFの輸送は阻害される。このことから、NGFと結合したTrkA受容体のリン酸化が、NGF受容体複合体をアクチンの逆行性輸送システムに結びつけるトリガーとなっている可能性が示唆された。また、pH変化に対して安定なCy3の代わりに、pH感受性蛍光色素CypHer5で標識した蛍光NGFは、酸性環境(pH4-pH6)でのみ蛍光を発するが、この蛍光NGFは成長円錐中心部のみで、すでにクラスター化した状態で観察されることから、これらのNGFは、内部が酸性化した後期エンドソームに取りこまれていることが示唆された。
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