RNAポリメラーゼ(RNAP)はDNA鎖上の遺伝情報を写し取りRNA鎖を合成する転写反応を担っている。RNAPは、まずDNA上のプロモーター配列に結合し、転写開始点付近の二重らせんを巻き戻して塩基対を乖離させる。そして、DNA上を二重らせんに沿って移動しながら鋳型鎖と対になるヌクレオチドを次々と重合させてRNA合成を行う。本研究は、一分子のRNAPが転写を行う過程をリアルタイムで解析することを目的とした。昨年度の研究で、1本のDNAに生じるねじれ運動を光学顕微鏡下で直接観察できる実験系を開発した。具体的には、短い鋳型DNAの一端をスライドガラス表面に結合させ、他端を微小なポリスチレンビーズに結合させた。DNAのねじれ構造変化をビーズの回転運動を通して検出することができる。本年度は、まずエチジウムブロマイド(EtBr)が結合する際に起こるDNAのねじれ量変化を観察した。溶液中へのEtBrの添加、除去に伴って、ビーズが時計回り、反時計回りに回転する様子が観察された。この回転量は生化学的な方法で求められた値と良く一致した。このことから、本法によってDNAのねじれ量変化を正確に測定できることが分かった。次に、T7ファージ由来のRNAPが転写を行う際のDNAねじれ量変化の観察を行った。T7プロモーターを8個持つDNAをスライドガラスとビーズの間に張り、溶液中にT7 RNAPを加えると、ビーズが時計回りに8回転する様子が観察された。これは8個のRNAPがプロモーター付近のDNA2重らせん1回転ずつを巻き戻したことを示している。さらに、RNAPとともにNTPを加えるとビーズの回転速度が増加した。これは、転写開始および伸長時のRNAP/DNA複合体の安定性の違いを反映していると考えられる。本研究によって、転写反応の各過程におけるRNAPの活性を数分子単位で測定できるようになった。
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