研究概要 |
転写伸長因子NELFは4種類のサブユニット(A, B, C/D, E)からなるタンパク質複合体である.申請時,NELF-E遺伝子がホモで破壊されたと考えられるマウスが一見正常に発育することを予備的結果として報告した.しかしその後のウェスタンブロッティングやRACE-PCRの結果,NELF-EのC末端側を大きく欠損した変異タンパク質が発現しており,この系統は完全なヌルミュータントではないことが判明した. これと平行してNELF-A遺伝子のノックアウトも行なった.こちらは第1エキソンを破壊したので,ヌルミュータントを生じると考えられる.NELF-A^<+/->マウスは一見正常に発育した.ヘテロ同士の交配を何度か行なったが,ホモ体は現在まで得られていない.統計的にはまだ不十分だが,NELF-A^<-/->マウスは発生のかなり早い段階(着床前後)で胎性致死となっている可能性がある. NELFの各サブユニットがNELF複合体のコンテクストでのみ働いていることは,多数の証拠により支持されている.NELF-EマウスとNELF-Aマウスの表現型が著しく異なるとすれば,2つの可能性が考えられる.(1)NELFの機能における各サブユニットの要求性が基本的に異なっているのか,(2)アリールの強弱の違いを反映しているのか,である.NELF-EマウスのNELF-E欠損部分にはRNA結合ドメインが含まれている.以前に行なったin vitroの解析から,このドメインはNELFによる転写制御に重要であることが示唆されている.一方,NELF-EはN末端側を介して残りのサブユニットと結合するので,この欠損変異体においてNELF複合体の全一性は保たれていると予想される.このように,期せずしてNELFの生化学的機能を部分欠損した興味深い系統を得ることができた.NELF-Aのヌルミュータントとあわせて今後解析していきたい.
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