染色体末端に位置するテロメアは、DNA2本鎖切断とは厳密に区別され、末端複製問題に対するゲノム上の緩衝地帯としても必須である。細胞分裂に伴うテロメアの短縮は癌抑制機構の一翼を担い、テロメア合成酵素であるテロメラーゼの活性化は癌細胞の無限増殖能の根拠となる。ポリ(ADP-リボシル)化酵素ファミリーに属するタンキラーゼ1は、テロメア伸長抑制因子TRF1をポリ(ADP-リボシル)化してこれをテロメアDNAから遊離させ、テロメラーゼの働きを促進する。タンキラーゼ1はテロメアのみならずゴルジ体や分裂期の中心体にも存在するが、その生理的意義は不明である。我々は、タンキラーゼ1とその結合蛋白質TAB182の相互作用によって司られる生理機能を明らかにすべく、以下の検討を行った。(1)TAB182コンベンショナルノックアウトマウスの作出を目指し、マウスTAB182ゲノムDNAクローンを用いてターゲティングベクターを作製した。同ベクターをマウスES細胞に導入し、計205クローンのうち相同組換え体を9クローン単離した。今後、相同組換えES細胞をブラストシストに注入し、これを偽妊娠マウスに移植してキメラマウスを取得する予定である。(2)マウスTRF1はタンキラーゼ1結合モチーフを持たず、事実タンキラーゼ1との相互作用は認められなかった。一方、TAB182分子内のタンキラーゼ1結合モチーフはヒトとマウスで保存されており、TAB182はテロメアDNAと結合しなかったため、タンキラーゼ1・TAB182複合体はタンキラーゼ1・TRF1複合体とは全く異なる生理機能を有する可能性が示唆された。(3)タンキラーゼ1が細胞分裂期特異的にリン酸化修飾を受けることを見出した。現在、同リン酸化に直接関与する因子の同定および同リン酸化の生物学的意義について検討中である。
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