以前我々は、細胞ストレス応答遺伝子としてNDR1を同定した。NDRG1は、細胞の恒常性維持や分化に関与すると考えられているが、その分子機能は不明である。近年、ヒトNDRG1は、遺伝性末梢神経変性疾患の一つであるCharcot-Marie-Tooth (CMT)病4D型の責任遺伝子であると報告され、注目を集めている。昨年度私は、NDRG1ノックアウトマウスには脱ミエリン化を伴う進行性の神経変性が観察されることから、NDRG1は末梢神経系のミエリン鞘の構造維持に必須のタンパク質であることを示した。NDRG1ノックアウトマウスは末梢神経変性疾患のモデルマウスとして有用であり、NDRG1の分子機能の解明に貢献すると思われる。本研究におけるこれらの成果は、本年度Mol.Cell.Biol.誌に受理され、掲載された。またNDRG1ノックアウトマウスは、現在までに世界各地の4つのグループに供与され、それぞれ共同研究ベースで解析がなされている。 一方で私は、NDRG1ノックアウトマウスの中枢神経系には、組織学的に目立った異常が見られないことを見いだした。これはNDRGファミリーの発現量や発現部位の差異によるためかもしれない。これを明らかにするために、NDRGファミリータンパク質それぞれに対する特異抗体を作製し、これらの抗体を用いてマウス脳組織を免疫染色した。その結果、NDRG1はオリゴデンドロサイトに、NDRG2はアストロサイトに、NDRG3はほぼすべての細胞の核に比較的豊富に発現していた。またNDRG4は脳組織において広範囲に発現していた。これらのファミリータンパク質が、中枢神経系においてNDRG1の欠損を補償している可能性が考えられる。今後、NDRGファミリータンパク質の生理的機能を明らかにしていきたい。
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