研究概要 |
生物の増殖や個体発生において不可欠な細胞質分裂の分子機構を解明するためには、収縮環の形成機構や性質をin vivoで調べる必要がある。特に近年、収縮環を構成するアクチン繊維はダイナミックな重合と脱重合の制御を受けていることが明らかになりつつある。そこで、収縮環におけるアクチンのダイナミクスを調べるために、アクチン調節タンパク質や細胞骨格制御シグナル伝達経路の解析を行った。 以前の解析から、収縮環のアクチン繊維を脱重合するのはAdf1の働きによることが分かっていた。Adf1は、アクチン繊維の端からモノマーを隔離する活性と繊維を切断活性を持つことがin vitroの性質として同定されていた。そこで、収縮環の動態に各々の活性がどのような役割を果たしているか、変異遺伝子を作製し、検討を行った。その結果、ある一定以上の脱重合活性が収締環の維持に必要なことと、切断活性は収縮環の環状構造の形成に重要であることが明らかになった。さらに、前者の機能とは、他のアクチン調節タンパク質であるプロフィリンやキャッピングタンパク質が関連して働いていることが分かった。また3次元タイムラプス観察の結果、アクチンの重合と脱重合のサイクルがある程度まで減少しても、収縮環の構造や収縮速度には影響を及ぼさないことが分かった。今後は、Adf1を中心にして、さらにアクチンのダイナミクスに影響を与える因子の機能解明を進める。 一方、アクチン細胞骨格を制御するシグナル伝達因子の一つであるRho4の機能解析も行った。その結果、Rho4は収縮環形成には直接に関与しないが、細胞質分裂後の娘細胞の分離に関与することが明らかになった(Nakano et al., 2003)。細胞質分裂の一連の過程において、複数のアクチンを制御するシグナル経路があることが考えられた。
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