研究概要 |
Notchシグナル伝達系の心臓血管形成における役割を解析するために、その標的遺伝子群であるhesr遺伝子に注目して研究を行っている。Hesr1,2,3それぞれ単独の欠損マウスの解析の結果、hesr2欠損マウスに心臓弁の形成異常を認めたが、hesr1及び3欠損マウスでは以上は観察されない。ところが、hesr1/2ダブル欠損マウスは、心臓血管系に重篤な以上を示し、胎生致死になる。10.5日目胚の心臓は、外見上単心室様構造になり、心室を構成する心筋の低形成が認められた。心筋は、胎生9.5日目位から心室外層の緻密層と、中心部の肉柱層に分かれ、左右心室を分ける心室中隔が形成されるが、ダブル欠損マウスでは肉柱層にアポトーシスが検出された。このことは、ダブル欠損マウス胚では、緻密層と肉柱層を形成することができるが肉柱層を維持できなくなり、心室中隔が形成されず、外見上単心室様構造となると考えられる。また、房室弁の形成に必要な、房室境界部にある内皮から間充織細胞への変換が、ほとんど起こらない。また血管系では、yolk sacの大血管系が認められず、胚体の血管は認められるが、動脈の分子マーカーであるephrinB2や血管の裏打ち構造を構成するalpha-actinなどの発現が認められず、動脈としての性質を消失もしくは維持できなくなっていると考えられる。これらの欠陥は、hesr2単独欠損マウスより強い表現系であり、二つの遺伝子が機能的に相補することを意味する。 また、心臓血管系の細胞系譜で活性型Notch1を強制発現させると、心房特異的に発現の認められるhesr1が、心室でも発現するが、hesr2の発現には影響を与えなかった。このことは、hesr2は、他のNotchに制御されている可能性があり、活性型Notch2を発現させる系の作成を進めている。これらの解析の進行により、hesr1と2を中心とした遺伝子カスケードの一端が見えてくるものと思われる。
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