研究概要 |
ホメオボックス遺伝子Otx2遺伝子のホモ欠損マウス胚は、最初の前方決定プロセスである、遠位臓側内胚葉の将来の前方への移動に異常を示すことを明らかにした(Kimura et al.,2000,2001)。さらに、この変異胚ではWnt/canonicalシグナル抑制因子、Dickkopf1(Dkk1)遺伝子の発現消失が見られる。そこで、軸形成にWnt/canonicalシグナルの関与を検討するため、Otx2遺伝子座にDkk1遺伝子を挿入し、軸形成の異常が回復するかどうか解析した(レスキュー実験)。さらに、Wnt/canonicalリガンドであるmWnt8A遺伝子の過剰発現マウスを作製し、軸形成に異常が見られるかどうか検討した。また、遠位臓側内胚葉の移動前後における、活性型β-cateninタンパク局在を、共焦点顕微鏡を用いて解析した。最後に、Wntシグナル、Dkk1遺伝子が遠位臓側内胚葉の移動にどのような影響を及ぼすのか、共培養実験によって解析した。以下にそれら解析結果を記す。 1、レスキュー実験の結果、Dkk1遺伝子の過剰発現により、Otx2遺伝子欠損で見られた軸形成異常が回復した。 2、mWnt8A遺伝子過剰発現マウス胚では、軸形成に異常が見られた。1,2の結果から軸形成にはWnt/canonicalシグナルの抑制が重要であることがわかった。 3、共焦点顕微鏡を用いた解析により、(1)遠位臓側内胚葉の移動前では、活性型β-cateninは臓側内胚葉でのみ活性が見られ、(2)移動時期には、前方領域の臓側内胚葉でβ-cateninの抑制が見られ、(3)軸形成に異常の見られる胚では、このβ-cateninの抑制が失われていることが分かった。また、共培養実験からDkk1タンパクは遠位臓側内胚葉の移動に対して誘引的に働き、逆にWntリガンドは反発的に働くことが分かった。
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