精子間競争は性淘汰において重要と考えられている。体内受精を行う動物では、精子が運動能を維持しながら雌体内に一定期間留まり(貯精)、精子間競争に大きく関わると考えられる。また、ショウジョウバエでは、貯精は、雌の再交尾を抑制する。これまでに、我々が単離したキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の雄不妊突然変異ms(3)236の雄は、形態の正常な、運動能力のある精子を作り、交尾中に精子を雌の体内に送り込むが、その精子は雌の貯精器官(受精嚢、管状受精嚢)にほとんど貯蔵されず、1日以内で雌からほとんど排出される。このことから、ms(3)236の不妊の原因は、交尾した相手(雌)の体内において貯精されないためと考えられた。 まず、精子は作らないが、正常な精液を作る雄(XO雄)にms(3)236突然変異を交配により導入し、ms(3)236を持つXO雄を得た.この雄と野生型雌とを交配し、交尾した雌を選び出し、翌日、野生型の雄と交配し再交尾率を測定した。ms(3)236突然変異の精液だけを受け取った雌に、再交尾の抑制が見られた。したがって、再交尾抑制に関しては、ms(3)236突然変異の精液には異常がないと結論した。 次に、ms(3)236雄と交尾した翌日、雌が産んだ卵を集め、精子特異的な抗体を用いて免疫染色し、精子の卵への進入率と発生の進行を観察した。その結果、ms(3)236突然変異雄と交尾した雌か産んだ卵のほとんどには精子が観察されなかった。しかし、稀に精子が観察された卵では、核分裂の進行が見られた。したがって、ms(3)236突然変異の精子は、卵に進入すればその後の発生に異常がないと考えられた。
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