本年度は、マハレ山塊国立公園のチンパンジーの音声行動を収録した映像音声資料の整理・分析を中心に行った。 まず、過年度の調査においてアナログ機器で収集した映像・音声資料のデジタル化作業については、ほぼ完了した。その資料を分析のために利用しやすくするためにデータベース化する作業を継続している。本研究課題の主たる目標の一つである「マハレのチンパンジーの音声エソグラムの作成」は、この作業と平行して進めていく予定である。 第二に、大人雄を含む個体間相互作用、狩猟行動、あるいはヒョウや死体との遭遇において音声行動が果たす役割についても、目下、分析を継続している。狩猟・肉食場面における集団行動の統制と音声コミュニケーションの関連については、平成16年3月3日〜5日に開かれた京都大学21世紀COEプログラム「生物多様性研究の統合のための拠点形成」主催の国際シンポジウム「アフリカ大型類人猿その進化、多様性および保護」において、成果の一部を公表した。 最後に、野生条件下のチンパンジーが行う音声行動のレパートリー及び機能的文脈を飼育条件下のチンパンジーのものと比較する点については、多摩動物公園のチンパンジーコロニーを対象に基礎資料の収集を開始した。その結果、さまざまな差異が明らかになりつつあるが、野生と飼育という条件のみならず、亜種間の遺伝的差異等、さまざまな要因をどのように考慮に入れて評価していくかという課題が重要である。これらの点を斟酌しながら、次年度以降、分析手法を練っていきたい。
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