本年度は、高次多次元形質のQTL解析のための手法の検討を行った。また、量的形質遺伝子座(Quantitative Trait Loci:QTL)解析の基盤となる遺伝子連鎖地図を作成するためのアルゴリズムを開発し、シミュレーションを用いて開発アルゴリズムの評価を行った。なお、予定していたプログラム作成と実データ収集は来年度に行う. 方法 1.高次多次元形質を評価するための統計理論やパラメータ推定のためのアルゴリズムについて検討をした。 2.組合せ最適化問題の近似解の導出においてその高い効率が報告されているAnt Colony Optimization(ACO)を用いて、連鎖地図作成のためのアルゴリズムを新たに構築した。 3.構築した連鎖地図作成アルゴリズムの効率をシミュレーション研究により評価した。 結果の概要 1.高次多次元形質の評価のための統計モデルとして、PLS回帰などを含めて利用可能なモデルについて検討した結果、独立変数の数が多くなく、むしろ従属変数の数が多いので、通常の多変量重回帰分析のモデルでも過度な当てはめにはならず、十分精度良く解析できると分かった。ただし、モデルが複雑なためマルコフ連鎖モンテカルロ法などを用いる必要がある。 2.ACOを用いた連鎖地図作成のためのアルゴリズムを構築した。遺伝子の並べ替えと同時に遺伝子の連鎖群分けも行えるよう工夫をした。 3.シミュレーションの結果、ACOを用いた連鎖地図作成アルゴリズムは、精度・効率ともに極めて良いことが分かった。例えば、1000個の遺伝子が座上する1つの染色体のデータを解析した場合、99.97%の割合で正しい順序が得られた。推定に要する時間は、100個の遺伝子のデータでは約1秒、1000個の場合でも約160秒であった。また、複数の染色体のデータを一度に解析した場合でも、98%以上の割合で正しい連鎖群分けと順序が得られた。
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