現時点で高い選択性を有する除草剤の作用機構ならびに選択作用機構を理解することは、さらに高度な選択性除草剤を開発する上で重要不可欠な知見となる。キンクロラックは、すでにイネ-ヒエ間に非常に高い選択性を示すことが知られている水稲用除草剤である。しかしながら、キンクロラックのイネ科植物における作用機構やイネ-ヒエ間選択性発現機構の詳細は、未だ明らかとなっていない。本研究では、キンクロラックのイネ科植物間、特にイネ-タイヌビエ間における選択性発現機構の詳細を調べることにより、高い選択性を発揮する諸要因を分子レベルで明らかにすることを目的としている。本年度は、キンクロラックの高い選択作用性にイネ科植物間における抗酸化能の差異が関与している可能性について検討した。供試植物は、キンクロラックに対して感受性が異なる5種のイネ科植物(イネ、トウモロコシ、イヌビエ、ヒメタイヌビエ、タイヌビエ)を用い、それらのキンクロラックによる酸化傷害の程度と、抗酸化酵素活性(スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、カタラーゼ(CAT)、アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)、グルタチオンリダクターゼ(GR))との関連を検討した。その結果、本剤に対して耐性を示すイネでは、いずれの抗酸化酵素活性においても、先天的に高い活性を有していたが、感受性の高いイヌビエ、ヒメタイヌビエ、ダイヌビエではいずれの活性においても先天的に非常に低く、中程度の感受性を示すトウモロコシでの抗酸化酵素活性は、ほぼそれらの中間の活性を示していた。特に、それら5種間でのAPX、GR活性は、本剤処理後のクロロフィル含量の減少と負の相関が認められた。これらの結果や本剤処理後の脂質過酸化、抗酸化物質による軽減効果等の実験から、本剤のイネ科植物間における高い選択作用性には、活性酸素の発生と消去系が関係しており、それらの差により本剤の選択性が高められていると推察された。 また、薬剤処理後の活性酸素種の発生ついては、現在、化学発光法やESRによる検出を試みている。
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