ナミハダニ(Tetranychus urticae Koch:以下「ハダニ」)の「群れ」としてのいくつかの性質に注目し、それらを実現する至近的メカニズムを探った。ナミハダニの雌成虫は集合して餌植物を加害するが、餌が劣化して1匹が歩行によって分散すると皆がこれに続く。行先が別れる場合には、後続個体は多数派が分散した道筋に続くので、多くのハダニ個体は分散した先の餌植物上で再び集合できる。一方、群れからはぐれたハダニは、群れの通過した道筋に出会えばこれに合流するが、さもなくば単独でコロニーを創設する。道筋の誘導効果は、同世代の後続個体に対してのみ有効である。これらの一見複雑にデザインされたハダニの「群れ」としての諸性質は、ハダニが歩行時に残す吐糸を後続個体が辿る、という単純なメカニズムによって自己組織化されていることを明らかにした。さらに、高密度下ではこの性質が暴走する結果、ハダニは餌植物株の上部に密集した網を張ることになる。この網がハエやガなどの飛翔性昆虫に便乗してハダニが分散することに役立つかどうかを実験的に検証した。その結果、昆虫を介した分散例は確認されたものの、その頻度は極めて低く、ナミハダニでは昆虫を介した便乗分散は起こりにくいと結論された。飛翔性昆虫を介したハダニ類の便乗分散については、本研究が世界初の検証例となる。上記成果の一部をExperimental and Applied Acarology誌にて公表した(研究発表を参照)。
|