昨年までに、ハダニ類(ナミ/カンザワハダニ)の「群れ」としての一見複雑な諸性質は、ハダニの歩行跡(に残される吐糸)を後続個体が辿るという単純な行動規則によって自己組織化されていることを明らかにしたが、16年度はこのハダニ類の歩行跡をハダニ類の捕食性天敵であるカブリダニ類(チリ/ケナガ/ミヤコカブリダニ)が辿れるかどうかを検証した。その結果、在来種のカブリダニ(ケナガ/ミヤコ)はわずか1匹のハダニの歩行跡を辿れることや、数日前のハダニの歩行跡を辿れることが判明した。歩いて移動するハダニの過去の歩行跡は現在の居場所につながっている可能性があるため、ハダニを歩いて探すカブリダニにとって、ハダニの歩行跡は餌探索の有力な手掛りとなることが示された。一方、定説によればカブリダニはハダニに加害された植物の出す「匂い」を手掛りにしてハダニを探すと考えられている。カブリダニが加害葉の「匂い」を感知できるハダニの密度は葉当たり数十匹(雌成虫数)以上と報告されているが、10箇所で年に3回、合計3000枚の野生植物の葉をサンプリングしてハダニのコロニーサイズを調査したところ、葉当たり1〜5匹のハダニのコロニーがほとんどであり、したがって野外のハダニを餌として存続するカブリダニにとって「匂い」は有力な手掛りになりえないことも判明した。以上の結果は、カブリダニの餌探索に関する定説に変更をせまるものである。これらの成果の一部を現在海外誌に投稿中である。
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