前年度までの研究成果より、ハダニ類の歩行跡(吐糸)は、ハダニの個体及び集団の行動を制御する手段として利用される一方で、ハダニの捕食者であるカブリダニがハダニを探索するためにも利用されることが明らかになりました。 本年度は、成虫化前の感受期に絶食させたケナガカブリダニ個体を用いることにより、ハダニの歩行跡に対する安定した生物検定方法を確立しました。この検定法を用いて、カブリダニがハダニの吐糸の物理的構造か化学成分のいずれを感知しているかを調べました。まず、ナミハダニの歩行跡をメタノールで丁寧に洗浄した後、ハダニの吐糸の構造が流されずに残っていることを走査電子顕微鏡で確認しました。この洗浄後の吐糸をケナガカブリダニが追わなかったことから、カブリダニが感知しているのは、ハダニの吐糸の物理構造ではないことが示唆されました。次に、ナミハダニの吐糸だけを回収してメタノールで抽出した成分を濾紙に塗ると、ケナガカブリダニがこれを追跡したことから、カブリダニはハダニの歩行跡の化学成分を感知することが証明されました。ハダニの歩行跡の化学成分だけでカブリダニが誘引されたことや、ハダニの歩行跡に対するカブリダニの追跡反応の強さが、歩いたハダニの数と正相関する事実から、ハダニの歩行跡の化学成分の濃度を高めれば、カブリダニをより強く誘引できるものと思われます。以上の結果は、将来的にカブリダニ類を自在に誘導してハダニを生物防除する可能性を示す成果であると考えます。
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