虫媒性植物ウイルスの適応度は、媒介者である昆虫の行動や繁殖に強く依存することが予想される。したがって、植物ウイルスに起因する病害の発生を予察し効果的な防除策を構築するためには、植物ウイルス媒介に関わる媒介虫の特性を生態学的な側面から明らかにすることが重要である。本課題は、侵入害虫ミカンキイロアザミウマについてトスポウイルス属のウイルスとの相互作用を上記の観点から解明することを目的としており、本年度は特にトマト黄化えそウイルス(TSWV)に感染した植物に対する雌成虫の産卵選好性を調べた。 TSWVを汁液接種したダチュラ株(接種株)と緩衝液のみで処理した同株(非接種株)各12株を隔離温室内に交互に配置し、ウイルス非保毒の雌雄各120個体を放飼して、孵化幼虫数を約2ヶ月間3日おきに記録した。接種5日後にはすべての接種株でTSWVの感染が、約1ヶ月後には新媒介虫の出現により非接種株においても感染が確認された。接種1ヶ月以降、接種株の本葉の多くはウイルス感染の進行のために落葉するかえそを生じ萎縮していた。放飼後8日目から17日目までの間、孵化幼虫は接種株上に有意に多く存在し、ピーク時(14日目)には非接種株に約5個体/株に対して接種株では約26個体/株が観察された。この傾向はその後逆転し、放飼35日目から56日目まではウイルス感染した非接種株で有意に多くの幼虫が見られ、ピーク時(38日目)には接種株約2個体/株に対して非接種株約31個体/株であった。 これらの結果は、ミカンキイロアザミウマの雌成虫はTSWV感染株を好んで産卵することを示している。したがって、本種のTSWV獲得が幼虫期に限定されることを考え合わせると、ウイルス感染した生産現場ではランダム産卵から期待されるより多くの割合の媒介虫が出現する可能性が高い。この成果は、TSWVの発生予察上重要かつ新たな視点を与えるものである。
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