トマト黄化えそウイルス(TSWV)をはじめとするトスポウイルス属の仲間は、近年、世界中で野菜や花き類に大きな被害を与えている植物ウイルスであるが、これらのウイルスが短い期間に分布域を拡大し圃場で蔓延するようになったことの背景には、媒介アザミウマ種との密接な関係が存在することが予測される。昨年度は、ミカンキイロアザミウマの雌が健全株よりもTSWV感染株を好んで飛来し、産卵することを明らかにした。媒介アザミウマによるウイルスの獲得は艀化直後の幼虫期に限定されるため、このようなアザミウマの行動はTSWVにとって適応的なものと考えられた。 今年度はさらに、ミカンキイロアザミウマを用いて同様の観点から調査を行い、下記の成果を上げることができた。 1.幼虫の選好性 TSWV感染株と健全株から採取した葉片を孵化したばかりの幼虫に与えると、幼虫は感染した葉片上で多く観察される傾向があった。このことは、部位により感染度が異なる感染株では、幼虫は感染度の高い部位へ集まり効率よくウイルスを獲得している可能性があることを示唆している。 2.次世代成虫の保毒・媒介状況 TSWV感染株と健全株とを同数配置した隔離施設内に、アザミウマの雌成虫を放飼し産卵させた後に除去し、その後羽化してきた成虫のウイルス保毒・媒介状況を調べたところ、保毒虫率およ媒介虫率とも感染株への選好性がない場合に比べてはるかに高い値を示した。 3.TSWV媒介能力の遺伝的背景 選抜実験により、ミカンキイロアザミウマによるTSWV媒介能力の遺伝的背景が明らかとなり、人為的に高ウイルス媒介系統と低媒介系統を作出することに成功した。 4.非効率的媒介種の繁殖特性へのTSWV獲得の影響 TSWVの非効率的な媒介種として知られるネギアザミウマは、ウイルスの保毒によって生存期間が短くなり、結果的にウイルス媒介可能な機会が減少している可能性が示された。
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